半世紀に及ぶ神話の一人歩き

半世紀に及ぶ神話の一人歩き

 ボクの生まれた年、55年に製作された伝説の名画「理由なき反抗」でジェームス・ディーンが着ていた赤いジャンパーは、最近でこそアレはMcGREGOR社の”ANTI FREEZE JACKET”だという事になっているよね。

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 だけど昔は同社の”DRIZZLER JACKET”だという事になっていてボクもある年代まではそれを信じていた。そしてモノもボンヤリとしか知らないクセに知ったかぶりをして友達や後輩達にもエラそうにそう言って受け売りをしていたんだよ。みんなゴメンね~・・・多分高校生の頃に読んだメンクラだか何かにそんな話しが書いてあったんだと思うんだよ。

 映画そのものは高校生の時に一度リバイバル上映で観てはいたけど、当時その赤いジャンパーは多分ボクの目に余りカッコいいモノに映らなかったんだろうかね、赤い色ばっかりが印象に残っていてディテールなんかに付いては割と印象が薄かったんだよ。それよりもブルージーンズに丸首の白いTシャツだけでどうしてあんなにカッコ良く見えるんだろう・・とか、ナタリー・ウッドの可愛さばっかりが記憶に残っていてさ。

 その後80年代に入ったらようやく様々な映画のビデオが市販されるようになって、街中にポツポツとレンタルビデオのお店が出来始めたおかげでやっとボクもその「理由なき反抗」をあらためてじっくり観る事が出来たんだよね。ビールを飲みながらテレビの前に座り込んで最初は一回ちゃんと通して最後まで観たら、今度は巻き戻してビデオデッキのボタンに指を置き、画面を見ながら何度もテープを送ったり止めたり戻したりを繰り返し、やっとこさその赤いジャンパーの全貌を掴む事が出来たんだよ。ついでに映画の中でジェームス・ディーンが穿いていたジーンズは何とLevi’sじゃなくてLeeだったという事まで発見しちゃったよ。

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 ちょうどその少し前の70年代後半頃だったかにLevi’sのイメージキャラクターとしてジェームス・ディーンと、そしてLevi’sのデカいロゴが胸に付いたTシャツをピチピチに着た映画評論家の水野晴郎が合成画面で共演してLevi’sを語るCMがテレビでオンエアされていたから、最初映画の中でLeeを穿いているのを発見した瞬間は「え??まさかね・・」、もう一回見直して「えェ~!Leeじゃないか・・コレは世紀の大発見、きっとオレしか知らない事件だァ!」なんて思って何度か映像を止めて再確認をした後に、この話しも友達や後輩なんかに随分と得意になって言いふらしたような気がするよ。まァ、「ジャイアンツ」ではちゃんとLevi’sを穿いているんだけどね。

 最近何かで読んだ話しではこの「理由なき反抗」、最初は白黒で製作される予定だったのが何だか偉い方の突然の意向で急遽カラーで製作される事になり、それならば・・と主役のジャンパーも急遽、キャラクターを強烈に印象付ける為に赤い色のものに変更されたんだと書いてあった。そう言えばボクの持っているDVDのジャケットの写真では何故か紺色だよね、どうしてわざわざ赤いジャンパーじゃ無いんだか不思議だったんだよ。これ最初の白黒用衣装で撮った宣伝用のスチル写真なのかなァ。

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 画像のものは古着屋さんで購入した”DRIZZLER JACKET”、襟の形状やタグ(Cravenette ⇒ イギリスの素材メーカーによる生地で防水加工を施したギャバジンの事・・だと前に教わった事があるよ。)などから恐らく60年代のものだよね。

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 実は最近袖を通した事が全然無いんだけど、この60年代後半頃のトレンドカラー「マスタード(カラシ色)」のカラーがとても気に入っているんだよ。それにいつものマニアックな話しだけどジッパースライダーの先っちょに付いているクレストっぽいデザインのプルトップがいかにもMcGREGORらしくて好きだなァ・・すごくカッコいいと思っているんだよ。

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 ただ古着屋さんで初めてホンモノを手にした時に思ったのは「あれ?このデザイン知っているよ・・。」そうなんだよね、昔のメンクラの「アイビー特集号」にVANのスウィングトップとしてこのデザインのものが登場していてね、いつも食い入るようにどのページも見ていたから、いちいちデザインを覚えちゃっていてね。「わァ、コレVANのにソックリだァ・・」ってさ、表現が真逆だったよ。

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 因みにDRIZZLERのDRIZZLEは例えばロンドンの天候に象徴されるような「霧雨」とか「シトシト雨」の事なんだよね。以前アメリカ人の友達にカタカナ発音で「ドリズル」と言ったら全然通じなかった。それでそいつに発音させてみたら「リ」にアクセントを置いて「ドゥリゾー」って聞こえた。毎度の事ながら英語は難しいやね。

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 ボクのと同じカラーのものが掲載されている広告なんだけれど、多分Billy Casperって言う当時の著名なゴルファーなんだろうね。だけどこの写真だとどう見てもちょっとお父っつぁんクサく見えちゃうねェ・・ボクも今同じのを着たらこんなふうに見えるんだったらちょっとだけヤだなァ・・めちゃくちゃカッコいいディテールを持ったジャンパーなんだけどねェ。

 ところでアメ横の「る~ふ」に居た頃はMcGREGORのDRIZZLERを一度も取り扱った事は無いんだけど、一度「マルビシ」さんで当時の”現行品”のDRIZZLERを見た事が有ってね、でも襟がやたらデカいロングポイントでタグのデザインもちょっと変わっていたから試着だけさせてもらって結局は買わなかった事が有ったよ。

 そんなこんなで結局ジェームス・ディーンの赤いジャンパーはどう見ても”DRIZZLER JACKET”じゃ無いのは分かっちゃったんだけど、この映画をじっくりと観ているとちょうどプラネタリウムの建物のところでナイフゲームをやるシーンで周りを囲む悪ガキ共の中の一人がダークグリーンのDRIZZLERっぽいジャケットを着ているんだよ。

 ところが更にもっと良く観るとどうもベージュ色の裏地が付いているっぽいのとそして背中のヨークが無いという所からアレは同じDRIZZLERのバリエーションか、もしくは違うモノのような気がするよ。ただ、もしその時代に既に別のメーカーが作ったソックリさんが存在していたんだとすれば、ご本家McGREGORのDRIZZLERはおそらくよっぽど売れたんだろうねェ・・・。

 だからアメリカでは、いつの日からかあのようなデザインのジャンパーをあれもこれも総称的にDRIZZLERと呼ぶようになったんじゃないだろうかと想像したりもするんだよね。そしたらジェームス・ディーンのDRIZZLER JACKETもあながち大間違いでも無かったかも知れないよね。

 ところでDRIZZLERが衣装として使われている映画って、実はあんまり思い付かないんだけどパッと思い出したのが例えば”CAPE FEAR”(邦題「恐怖の岬」)という62年の白黒作品だけどグレゴリー・ペック主演のサスペンス映画が有って、

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 その中でグレゴリー・ペックが紺色だか黒色だかのDRIZZLERらしきモノを着て出て来るシーンが有るんだよ。おまけに良く観ていると、途中でチラっと出て来る端役の学校の警備員のオジサンらしき人も白っぽいDRIZZLERらしきモノを着て登場する瞬間があるよ。

 たまには袖を通してみるか・・とも思うけどやっぱり、お父っつぁんクサくなっちゃうのかねェ。(実際、間違いなくお父っつぁんじゃね~か・・苦笑)若いコが着ると本当にカッコいいのにね・・