コラムニストの「いであつしくん」に過日貸したままになっていた本が戻って来た。たまたま別の方から「是非拝見してみたいんですが、お持ちですか?」と聞かれ、そう言えば・・と、ようやく思い出し送って頂いた。「トラッド歳時記」という本。あの「くろすとしゆき先生」が70年代に著された名著である。本棚にずっと放り込んだままだったのでもう何年も開いてみなかったんだけど、あらためてパラパラと眺めながらある事を思い出した。
初版が73年1月となってるから高3の後半の頃だけどね。メンクラの広告を見てたから発売されてすぐ購入したんだけど実はその頃ボクは髪も伸びててガチガチのアイビーやトラッドというのからだいぶ気持ちが離れ始めてた頃だったのでやや距離感を感じながら読んだ記憶がある。ただ唯一、あるアイテムの白黒写真が、どうにもこうにも気になり始めてね。
画像のヤツ、そうBARACUTAである。(自分の記憶では国内の雑誌や書物にBARACUTAが初めて掲載されたのは、おそらくこの写真じゃないかなと勝手に思ってる。)ところがボクはVANやKENTのSWING TOPは着てたから分かるけど、写真のモノは白黒なので色が良く分からないなりに裾と袖口がリブになってて裏地がチェックなのが、やたらカッコ良く思えてね、でも今まで見た事が無かったんだね。それで一緒に写ってるのがVANのランチコートやダッフルコートだったので最初はVANかKENTあたりの商品だと思って、良く通ってたショップに本を持って行って店員のお兄さん達にも聞いたりしたんだけど、やっぱり分からなくてね。それでず〜っと気になったまま暫く経ったある日、東京に行く機会があった。事件はその時だった。
アイビーが大好きという共通項でたまたま知り合った東京の明大生だった先輩が、初めて会ったその時に何とあの白黒写真のモノと思われるSWING TOPを着てたんだよ、紺色のをね。早速聞いたら先輩もくろす先生の本の写真の事を知ってて、これがそうだと言うんだね。まさか輸入物だとは思ってなかった。やっぱりメチャクチャにカッコ良くてね、お願いして脱いでもらってそのBARACUTA(バラクータ)という変な名前(という印象だった。)のヤツをじっくりと眺めさせてもらった。赤いタータンチェックの裏地が付いた、そして何とイギリス製だったSWING TOPはシビレるくらい美しいと思った。
それで、どうしても同じモノを買いたいという話しをすると、先輩がBARACUTAを扱ってるという店まで、それから連れて行ってくれるという事になってね。そして初めて大井町の「みどりや」さん(原宿キャシディさんの原点)の存在を知る事になったんだよ。
果たしてBARACUTAはガラスケースに何枚か収まっていて何色か色違いが存在するのも分かってね。店主の方(現原宿キャシディさんの会長さん)は、その日NATURALを着ておられた。ところが欲しかったNAVYは残念な事に在庫が無く、ケースに有ったのはBRITISH TANやGOLDという色だった。NAVYを是非と尋ねると、暫くしたら入荷の予定があると言われたので京都の実家の電話番号をお伝えして、その日はCONVERSEのALL-STARやFARAHのコットンパンツを購入して帰る事にした。せっかく出会ったのに在庫が無かったのはものすごく残念だったけど名残惜しさも有ってね、他のモノを試着させてもらったりして、お店でグズグズしてると外出から戻って来た別の店員のお兄さんやバラバラと訪れるお得意様と思えるお客様のほとんどがBARACUTAを着てるのに正直、かなりビックリしてしまった。帰りに目撃した近所の商店のお兄さんまでが着てた。やはり東京は、とてつも無くスゴイところだと、この瞬間に思い知った。
結局何日か経った頃、直接京都までお電話を頂き、たまたま上京の機会があったので再び「みどりや」さんに引き取りに行って、やっと初めて手に入れたのがNAVYのBARACUTAだった。価格が12800円だったと思うけど当時VANのコットンスーツが9800円だったからかなり高価な買い物だったけどね。でもあんまり嬉しくて、買ってすぐその場で着て鏡の前で震えるくらいメチャクチャ興奮したね。帰りの新幹線の中でも窓ガラスに映して見たり、着たり脱いだり、またタグをうっとりと眺めたり匂いを嗅いだりと、ハタから見るとかなり危ないガキだったと思う。その時のBARACUTAは余りに着すぎて最後は色がグレーになっちゃって、袖口や裏地もボロボロになって「る〜ふ」に入った頃くらいにゴミになってしまったんだけど、取って置けば良かったと今さらながらに後悔している。
大げさな話しでは無くて、本当に初めて手に入れたこの一着のBARACUTAのお陰でボクは本当にこの業界に入ってしまった。とにかくBARACUTAが好きで好きで仕方がなくて、「る〜ふ」にどう?という仕事のお誘いを受けた時に「る〜ふ」はBARACUTAを扱ってるという理由だけで決めてしまったという経緯も本当の話しなんだよ。
画像のBARACUTAは後日探して入手したモノだけど、ボクが最初に「みどりや」さんで購入したモノと全く同じ大体73年〜74年くらいのモノで、実はあの赤峰幸生氏がWAY-OUTをスタートされた時にBARACUTAを輸入し市場に紹介されたという話を聞いた事があったけど、その時のモノだろうと思う。当時他には銀座の阪急や横浜の信濃屋さんなんかでも売られていたようなんだけど、あの大井町の「みどりや」さんで初めてBARACUTAに出会ったのがその後の人生を大きく決定付けてしまうとは思ってもみなかった。
現在も当店の「ド」が付くくらいの定番商品であるBARACUTAだけど何度も繰り返されるマイナーチェンジの結果、見た目は変わらないけれども明らかな仕様の違いが幾つかあるので、ここで分かり易い違いを2〜3紹介してみようかと思う。
まずFOURCLIMESの時に書いた事があるんだけど、タグの大きさが75年くらいを境に8cm四方くらいの大きさに変わり、ほぼ現在に至るんだけど元々は5cm四方くらいの小さめのタグだったんだよね。裏地のRED FRAZERと呼ばれるタータンチェックも現在のものよりは、色が鮮やかで、格子のピッチがやや細かいのが特徴なんだね。
そして一番の違いがアンブレラカット、肩からの水滴をスムーズに落す役割とそして通気性を兼ね備えた・・と説明される部分。本来はこの部分が本気で通気を考えたベンチレートスリットになっていて、画像のように本当に内側から外側に開口してたんだよ。
古着屋さんでたまに見られるVAN HEUSENのBARACUTAは、この部分をオリジナル通り踏襲しているからかなり後期のモノまでこの仕様になっていると思うんだけど、実はこれがオリジナルの仕様だよ。そしてBARAPELという撥水や汚れ防止加工のサブネームがスリット付近に付くんだね。
ジッパーはこの時代はほぼAEROのものが装着される事が多かったと思うんだけど何故かYKKのジッパーが装着されてるのを1〜2度目撃した事があってね。理由は全く分からないんだけど。
また時々アメリカの衣料のようにジッパーの差し手が日本とは逆の左差しなんていうのも存在した。イギリスもおおらかだったんだよね、きっと。もしくは本当はFOURCLIMESのタグが付いてアメリカ向けの商品になるモノだったのかなァ。
因みにフロントの裾の部分も現在は切り返しになってて裏地が寸断されてるケースが多いんだけどこの部分も変更されてしまった仕様なんだね。
あと細かいハナシなんだけどポケットの袋布も当時はアウターシェルと共地が使われていたんだよ。ちょっとだけ残念かな・・・。
今度はこのモデルを完全復刻したいなァ。