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第134回 「強烈に憧れたよねェ・・・カシミヤのニット」

 まだ高校生の頃にね、どなたかのエッセイの中で「カシミヤのセーターはとても高価なモノだけど成功した大人のセーターだ。」というような事が書いてあってさ。だけど今と違ってカシミヤのセーターなんてその辺りで売っているワケでは無く、ボクは見た事も触った事も無かったから、一体どんなモノなんだろうとずっと思っていたんだよね。周りには誰も知っているヤツ居なかったし。  で、結局何も分からないまま上京して来て、ある日たまたまバイト先の先輩に日比谷の三信ビルの中の「ワールドサービス?」でハンバーガーをご馳走になったんだよね。


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 そしてその並びだかに有った輸入物を扱うお店(お店の名前忘れちゃった)で先輩が派手なストライプのARROWだかMANHATTANのロングポイントシャツを買った帰りに銀座のテイジンメンズショップに寄ったんだよ。まだ2階にVAN SNACKが有ってね。

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そして色々と見ていたら先輩が急にガラスケースの中を指さして「お~!イギリスのカシミヤ(のセーター)が売ってるぞ。」言うから「え?ホントに!」聞いた途端、ボクが一挙にボルテージを上げたまま中を覗いたら何か黒いタートル?みたいなのが置いて有ったんだよね。「そうか、これがカシミヤのセーターか・・・」

だけど、どう見ても当時のボク達の風体では、買わないのが見え見えなのに思い切って店員の方に、恐る恐る聞いてみた「ちょっと手に取って見る事は出来ますか?」そしたら「はい、はい、こちらですね」とか言って、ニコニコしながら意外にもあっさりとケースから出して上のガラスに広げて見せてくれたんだよね。

そしたらもう大変だった。その軽さとふわふわした柔らかい手触りに感動して「ひぇ~!スゴいや!」本当にビックリしてしまったんだけど値段を見て更に、もう一度ビックリしてしまった。「こんなにするの・・・」

ブランドもデザインも全然覚えていないけど、ボクのカシミヤ初見参だった。

その後、気にしてあちこち見ているとイギリス製のセーターは丸善や伊勢丹にも売っている事が分かって来てね。だけどカシミヤに至っては、みんなガラスケースに入れられていて、その辺の棚にひょいと置いてあったりしないからガラスの外側から凝視してデザインを見たりブランドを覚えたりしていたんだよね。時々、白い手袋をした店員のおネーさんにブランド名の読み方を聞いたりしてさ。

BALLANTYNEROBERTSON、そしてALAN PAINE・・・どれもこれもイギリスのメーカーで素晴らしくステキだった。

そんな事をしている一方でアメ横にも相変わらず行っていたんだけど、最初は全然気が付かなかったんだよね。実は「る~ふ」にもカシミヤのセーターが売っていた。大体アメ横のお店にはアメリカの製品しか無いもんだと思い込んで居たから、イギリスのセーターが有る事自体が、ずっと分かっていなかったんだよね。(一方、大井町の「みどりや」でMcGEORGEPETER STORMのセーターは目撃していたけどね)

「る~ふ」では、そんなに多くは無かったけど、ガラスウィンドウの中にはカシミヤのROBERTSONだったかな?のアーガイルやALAN PAINEのカーディガンやシャギードッグなんかが入れられていてね。そして他の棚にもよく見てみるとMc.GEORGEPETER STORMなんかがアメリカのLORD JEFFWOOLRICHなどとごちゃ混ぜに置いて有った。

結局その日購入したのはPETER STORMのオイルドセーターだったんだけど、カシミヤのセーターはいつか絶対に欲しいと思っていたんだよね。特にALAN PAINEのヤツ、何だかブランド名とタグが一番格調高くてカッコいいと思ってさ。

その後「る~ふ」に入る事になったんだけど、ちょうど1月くらいだったのかなァ、店頭にはもう余りセーターは残ってなくてLORD JEFFPETER STORMなどが何枚か有った程度でALAN PAINEなんてかけらも残っていなかった。

で、その年の秋冬は社長や先輩の仕入れでカシミヤ製品の入荷というのは無かったんだけどWILLIAM LOCKIEのラムやMcGEORGEのシェットランド。そしてBYFORD, DALESt.JAMESALPS等といった初めて見るブランドなんかが有って毎日触りながら楽しくて仕方がなかった。おそらく、この頃からボクのセーター好きは形成され始めたんだと思うんだよ。

そして、その翌年から一部仕入れをさせてもらえる事になり、1社だけはどうしても自分が担当したくて社長に直訴してOKをもらったのがデスモンド・インターナショナルという当時のBARACUTAGRENFELLの輸入代理店だったんだよね。

「やったァ!」ってなもんでスゴく嬉しかったよ。だってデスモンドはALAN PAINEBYFORDの代理店でも有ったからね。

それからボクはデスモンドの担当の方からALAN PAINEの資料を頂き、1907年の創業で20年代には当時のエドワード八世(ウィンザー公)の着ているレジメンタルストライプ入りのVネックのセーターがALAN PAINE製だとか、50年代には、あの有名なテムズ川で行われるオックスフォード大学とケンブリッジ大学が競う「ザ・ボートレース」でオックスフォード大学の選手のチームストライプ入りのケーブルニットを供給していた話しだとか、また英国女王より授与されるQUEEN'S AWARDを受賞するという栄誉に輝いた事なんかを教わったんだよ。

当時のデスモンド・インターナショナルの代表だった中牟田久敬氏の著書(81年発刊)にも詳しく記載が有るね。


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そしてしばらく経ち、展示会が開催された際に、めでたくボクはALAN PAINEのカシミヤを、自分が買うのも1枚入れて少量だけど発注出来たんだよね。ショールームであれこれ触りながら悩んでいると、どれもこれも良さそうに思えて、なかなかその場から離れる事が出来なかったよ。79年の秋冬のコレクションだった。

え?どうして79年ってしっかり覚えているのか?って。実は、翌年80年の春頃に受けた雑誌「JJ」の取材写真が残っていて、ちゃんと806月号と記載が有るからなんだよね。


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この日ボクは一番のお気に入りのBARACUTAを着て、そしてちょっとしか見えないけど、インにはしっかりと勝負ニットとしてALAN PAINEのカシミヤのVネック(右画像=もうかなりボロいけど、やっぱり捨てられないんだよね)を着ているんだよ。

そして画像の中で僕の左ヒジの下辺りに積んであるのがALAN PAINEのコットンのクルーネックなんだよ・・・って誰も分かるワケ無いよね。

でも、その頃一番売れたのは、ちょうどプレッピースタイルがピークに達していた頃でも有ったからだと思うけど、実はシェットランドのクルーネックやアーガイルだった。


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まァ、そんな事が有ってからずいぶん経ったけど、今回思う事が有って久しぶりにカシミヤのニットを発注してみたんだよね。それも正真正銘、英国製ALAN PAINEのヤツ。何だか嬉しいよねェ。

形は今の気分なら絶対クルーネックだよね・・・って結局自分が何着か欲しかっただけなんだけどね。

それとも、どなたかお付き合い頂ける方が居たりするのかな?


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