タンカース・ジャケット・・人気は無い。暖かくも無い。

タンカース・ジャケット・・人気は無い。暖かくも無い。

 先日、ようやく丸一日お休みが取れたので、まだ外は明るいのに調子に乗ってビールを飲みながら久し振りにロバート・デ・ニーロの”タクシー・ドライバー”を観たんだよ。

 大好きな作品の1つで、映画館で最初に観たのは多分「る~ふ」に入る直前くらいだったと思うから、76年の暮くらいだったのかな?試しに指折り数えてみたら、ちょうど40年くらい前の事なんだよね。ありゃァ~・・数えなきゃ良かった。

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 この映画を観てボクは、ロバート・デ・ニーロの大ファンになったんだよ。だからその後の”ディア・ハンター”は公開が待ち遠しくて、観に行った日は朝からソワソワとして、やたらと興奮した事を思い出すよ。

 でも、映画って不思議だよね?繰り返して観る度に映像の中に新しい発見をしたりする事が有るんだよ。

 最初はどうしても字幕を追いかけながら、主役や助演者の表情なんかを認識するのに目一杯だから周囲の景色まで目が行き届かないんだけれど、何度か観ているとストーリーの展開も大体憶えちゃうから妙に視野に余裕が出て来て、オフィスのシーンで映り込むデスクの上の小物や窓の外を走っているクルマとか向かいのビルの看板、群衆の中に面白い格好したヤツを発見したり、ダイナーのキッチンに無造作に貼られているメモとかさ、観ながら「へェ~、あんなの有ったっけ?」「こんなヤツが映っていたんだァ・・」などと楽しい発見をしては、2本目の缶ビールを開け独り言を言いながら観ていたりするワケだよ。 

 だけど、映画の制作を担当する演出家やスタッフのヒト達は、あくまで違和感無く自然に見えるように画面に映り込む以上の範囲にわたって様々なモノをレイアウトしたり、光を計算したり、動きをシンクロさせたりと大変なんだよね、きっと・・・いつも、プロはスゴいなと思うよ。 

 特に衣装に関しては、その時代や人種、季節感や役柄の生い立ちだとか経済状態など様々な要素から決められて行くんだろうけど、ただ着せるだけでもダメだし、例えばお金持ち役ならきちんとしたモノやブランド物をバリっと着せていればOKかも知れないけど逆に、ほとんど毎日着ている感じとか汚れ方、擦り切れかかっているジーンズの裾やヒザの感じ、手入れもしないまま履き倒しているように見えるブーツだとか、相当苦労するんだろうねェ・・ジ~っと見入っちゃうようなボクみたいな困ったヤツが居るからさ。 

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 ボクは、劇中のデ・ニーロの少し屈折した影の有るカッコ良さにシビレまくったこの映画がきっかけで、劇中で彼が着ていた軍の放出品っぽいジャケットが欲しくなり、すぐに中田商店に行ったんだよね。(モデルガンやホルスターを買ったり、モヒカン刈りこそしなかったけれどね。) 

 だけどジャケットの呼び名が有るのかどうかも分からなかったから、多分映画館でもらったチラシか雑誌の切り抜きを持って行ったんだよ。(後日、このサングラスは買ったよ。AMERICAN OPTICALという似たヤツでRAY-BANじゃ無かったんだけど。) 

 それで写真を指差して、「コレと、おんなじジャケットって有るんですかァ?」そしたら「あ、#M-65ね。」「へェ~、そういう呼び方なんだ・・」初めて知ったんだよね。そして「新品と中古とどっちにする?」って聞かれて、値段を見たら中古の方はウソみたいに安いワケ。だけど、中古って事は元の持ち主が居るって事だし、やっぱりちょっとドキドキするから結局新品の方を買ったんだよね。照れ臭いからワッペンは付けなかったよ。 

 だけどピカピカなのは恥ずかしいから2回ほど洗濯機でガバガバと洗ってね。それからボクは得意になって、それをLEVI’Sの#502に合わせたりしていた。靴はALL STARのブラックのハイカット・・ちょっと足元が変だったか?まァ、いいやね。 

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 ところが、その頃はデ・ニーロが冒頭から着て出て来るタンカース・ジャケットの事をボクは何も知らなくて、認識はしていたけれど多分あんまり興味を持たなかったように思うんだよね。きっとその時はタクシー会社のユニフォームみたいに思っちゃったのかも知れない。

 で、今回DVDを見終わったボクは早速「確か前に、どこかへタンカースをブチ込んだままだよねェ・・どこだっけかねェ・・」あっちこっちひっくり返して探し出して来た。そして最近も何度か仕事に着て来たけれど、案の定うちのスタッフ達は誰も興味を示さなかった。多分ルックスがさえないからだよなァ・・きっとボクが着ると全然カッコ良く見えなかったんだよ。 

 その、デ・ニーロが着ていたショート・ジャケットが何なのか判明したのは、映画の後、何年か経って「る~ふ」に良く来ていたサープラス好きのお客様と、たまたま「タクシー・ドライバー」の話しをしていたら、そのジャケットの話しになって「アレは大戦中の戦車兵用のモノでベトナム戦で着ていたワケでは無いんだよ。」教えてくれた。 

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 そして、ボクも小さい頃大好きで従兄弟と毎週観ていたテレビドラマ「コンバット」のヘンリー少尉(リック・ジェイソン)も着ていたのが同じジャケットだと教えてくれた。「へェ~!」ってなもんで、ますますそのジャケットが欲しくなってしまったんだよね。(後日「コンバット」の再放送か何かでヘンリー少尉が着ているのを確認出来た時は「やったァ!本当だ・・スゴい」と思った。) 

 ところが、そのお客様はタンク・ジャケットって教えてくれたから、ボクもしばらくそう呼んでいたんだよね。 

 でも気が付いたら周りの仲間達はタンカース・ジャケットまたはタンカースと呼んで居るからボクも慌ててみんなにならってタンカースと呼ぶ事にし、いつかは欲しいなァとぼんやり思っていた。 

 だけどその頃は仲間が言う、原宿の方の古着屋さんに有るらしいとか、いやアレは下北沢だ・・みたいなウワサだけで、タンカースのレプリカを生産しているメーカーなんてまだ無かったと思うから、長いことアメ横に居ながらボクはタンカースを一度も見た事が無かったんだよね。 

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 タンカースのレプリカを手に入れる事が出来たのは、もう少し後の事でAVIREX製のレプリカだった。ところが着てみると脇のポケットが妙に高いポジションに切られているんだよね。あれ?と思い、他のも見たら入荷したモノが全部そうなっているワケ。 

 「これ、間違いなのかなァ?絶対変だよねェ・・デ・ニーロのもこんなだっけ?」などと同僚とも話したりしていたんだけど謎は解けないまま、それはそれとして結構気に入って着ていたんだよ。 

 そしたら何かの時にボクが着ているのを見てサープラスに一応詳しい?先輩が「戦車兵は戦車の中でシートに座ってしまうとポケットが使いにくくなるから高い位置に切って有るんだよ。」教えてくれて「なァるほど~!」なんて思ってしばらく信じて、お客様にもエラそうに言ったりしていたけど、またもやそれも数あるアメ横伝説の1つで真相は違っていたみたいだった。 

 何だか洗車兵に限らずアメリカ陸軍は腰の周囲に付ける装備が有り、それを避ける形で脇ポケットが切って有るのでハイポジションになっていると何かに書いて有ったんだよ。

 AVIREXの間違いでは無かった。 

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 去年か一昨年に公開された映画「フューリー」では、ブラッド・ピットが初期型と言われるパッチポケット仕様のタンカースを着て出て来るけれど、あれ観て初期型タンカースが欲しくなって買ったヒト居るのかなァ?だけど、その後もあんまり街中で見た事は無いからカッコ良く見えなかったのかも。実は、ボクもデザイン的には後期型が好きなんだけどね・・・ 

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 そう言えば、随分後になってから観た映画だけど70年くらいの作品でドイツ軍の隠蔽している金塊を強奪するストーリーが楽しくて気に入っているんだけど「戦略大作戦」の劇中でクリント・イーストウッドもタンカースの後期型を着ていて、何だか悔しいけれどバッチリ似合っているんだよね。ボクが着てもこういうカンジにはならないよ。 

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 そして割りと最近では、(最近でもないか・・)WOWOWでやっていた「バンド オブ ブラザース」の第6話で衛生兵のユージーンを演じたシェーン・テイラーが赤十字の腕章を巻いたタンカースを着ていたのがとても印象的だったよ。ユージーンは人間味が溢れていて、とってもカッコ良かったんだけどストーリーも素晴らし過ぎてね・・少し心に重たかったから2回目がまだ観られないんだよ。 

 ところで、あの#MA-1だってリバイバル・ヒットをしたんだから、このタンカース・ジャケットが陽の目を見る事も、そのうち有るかも知れないよねェ?・・その時には、得意になって言っちゃうんだよ「ボクなんて、昔から着てるよ!カッコいいけど、実はあんまり暖かく無いんだよね~」ってさ。ヤなヤツだ・・・