どうでもいいようなワニのお話し

どうでもいいようなワニのお話し

 先日、「玉美」さんの社長と焼き肉を食べる約束をしてね、久しぶりにアメ横に行ったんだよ。(ボク自身の中では、行ったと言うよりもアメ横に帰ったと言うカンジ。)それで閉店間際に行ってお店の前で暫く待っていたら、お向かいのお店の軒下でスゴいものを発見しちゃってね。下の手描きカンバン・・『わァ!有った、有ったよね~!良く憶えてるよ!このカンバン。ずっと前から有るんだよ・・』写真撮って来ちゃった。

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 「マンシング」に「ラコステ」、そして何と「クロコダイル」に「トロイ」だよ。スゴいよね!これ多分70年代の初めくらいに付けたカンバンだろうなァ・・ボクが「る~ふ」に入って、ここに有ったお店のお姉さんとよく喋りに来ていた時にはたぶん有ったもんね。 

 ボクの本の中でも少し触れているんだけれど70年代には直輸入の「マンシング」や「ラコステ」等をそれこそ山積みにして当時のワンポイントブームを牽引していた「林実業」さんのカンバンだった。今は全く様変わりしてしまって別のお店になってしまっているのだけれど「林実業」さんも、当時はなかなか素通り出来ないチェックポイントだったんだよ。ポロシャツの他に直モノのB.V.DやJANTZEN、ARROWなんかの珍しいセーターやカーディガン等も時々扱っていてね、美人のお姉さんも含めてちょっと目が離せなかった。

 そんな懐かしい70年代始め頃のワンポイントブームの事を久しぶりに思い出していたら、ちょうど発売したばかりの雑誌「BEGIN」の蔡俊行さんの名物コラムで蔡さんが奇しくも「ラコステ」と「クロコダイル」の事を書かれていた。「東のラコステ・西のクロコダイル」だってさ・・やっぱり上手い事を言うなァ、さすがだ・・と感心してしまったもんね。 

 まァ実際に両者は、ある時期まで大人の事情に依る市場共存をしていたんだけど、間違い無く胸にワニのマークを付けたシャツを発売したのはクロコダイルよりもラコステの方が30年程早いというのが事実みたいだよ。クロコダイルのワニはアタマの向きがラコステと逆で、目が白目をむいているのが特徴だった。そしてラコステはワニのワッペンを身頃に縫い付けてあるのに対してクロコダイルのワニは身頃にワニが直接刺繍されていたんだよね。ボクが高校生になった頃、これはこれで友達の間でも結構流行っていた。 

 友達の中にも最初は間違えているヤツが居てね、ラコステの安い店を見つけた・・とか言ってシャツだけに留まらず、ソックスとかニットヴェストまで買って来た事が有ったよ。

 ワンポイントブームの頃には、まず一番カッコいいのが「マンシング」と「ラコステ」だった。但し値段も飛び抜けて高くてね。それで同じワニのマークの「クロコダイル」が安過ぎず高過ぎずという巧みなポジショニングでそれなりに一時期は人気が高かったんだよね。特に関西の都市部では、ちょっと突っ張ったお兄さんやお姉さん達がアベック(注:死語 カップルの事)で愛用している事も多かった。ボクも一度、心斎橋の「エーコー」でハイネックシャツとカーディガンを買った事有るよ。ところでその頃の「クロコダイル」の広告は何故か全部英語で、輸入物だと思っているヤツも確かに居たように思うな・・・。 

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 その他にも「何だか、それっぽい・・リザード」やどうしても広告が見付けられないんだけど、ワニに月が掛かっている「TSUKIWANI」とかが雑誌なんかに広告を出していたのを何だか懐かしく思い出したよ。「TACHIWANI」という??文字通りワニが立っているのも有ってさ、後日アメ横で発見して見た途端に爆笑したのを思い出したけれどアレいつ頃のものだったのかなァ・・。そしてIZOD LACOSTEブームの後半の頃には2匹のワニが重なって、ちょっとイケナイ景色のFUCK LACOSTEという完全にアウトなモノまで当時アメ横には売っていた。

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 まァ、ブームの頃は、みんなそれらに係わらず「キャッシング」「マクレガー」「アーノルド・パーマー」「トロイ」「ジャック・ニクラウス」「ウェザー・クック」「B.V.D」「プレイボーイ」「ファーストフライト」色んなのを着ていたよ。あ、「フレッド・ペリー」も有るには有ったけどボクの周りで着てるヤツはバドミントン部に居た一人だけだった。

 ところで、今年ボクは何故かあんまりラコステを着て無いや・・なんて考えながらちょっと別の目的で探している資料画像が有って”HOLLYWOOD AND THE IVY LOOK”っていう写真集を見ていたら、たまたま若い頃のクリント・イーストウッドがラコステを着ている写真が出て来た。 

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 そうそう・・60年代頃のスターでラコステを好んで着ているヒト居たよねェ、「おかしな2人」のジャック・レモンとか「避暑地の出来事」のリチャード・イーガンなんかは映画のシーンの中で着ていたよ。なんて写真を見ながら思い出していた。 

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 ところでこのクリント・イーストウッドのラコステ、良く見てみるとワニのワンポイントがスゴい不細工と言うかズングリとして不格好なんだよね。キャプションを読んで見ると”IZOD LACOSTE”と書いて有ったよ。グリーンじゃ無いワニと白っぽい4つ穴のボタンが特徴で本国フランスのラコステに付いているボタンはもっとダークカラーで2つ穴だと説明して有った。 

 う~ん、そうなのか・・だけど、これ多分アメリカ別注のフランス製ラコステだと思うんだけどなァ。まァ、どっちでもいいやね。 

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 それよりも、今この写真と同じワニのワッペンを付けて世の中に流通させてしまったら「ワニの形がちょっとねェ?・・コレ大丈夫かァ?」なんて絶対にパチもんに見えちゃうだろうなァ・・なんて思ってしまった。もし今、うちのお店で販売したら「このワニ怪しくないですかァ・・?」とか言われちゃうかも知れないもんね。 

 でもどうしてわざわざこんな不格好なワニを付けたんだろうね?だって技術的には元々のグリーンのワニの糸の色を変えるだけだと思うもんね。それとも、一代前のフランスラコステのワニもこういう姿なんだろうか?残念ながらボクには当時のフランス製のラコステのワニがどんなだったか分からないんだよね。ボクの知っている限りでは、70年代の始め頃フランス製のラコステはワニの中に”LACOSTE”の文字が入ってはいるけれどワニそのもののデザインは、すでに今と変わらなかったんだよね。だけどひょっとしたら60年代のフランスラコステのワニはこのようなずんぐりとしたデザインだったのかも知れないね。(以前の日本製ラコステには文字が入っていたという記録をよく目にする事が有るけれど、当時日本で買う事が出来たフランス製ラコステにも実は文字がちゃんと入って居たんだよ。) 

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 ラコステのブランドブックには、沢山のレアな写真に混じって1933年の広告?等も載せて有り非常に興味深いんだけど何故か「怪しい?ワニのマーク」も集めて掲載して有った。

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 なるほどね、確かにどれも怪しいや・・だけどクリント・イーストウッドの写真のワニも何だかボクにはここら辺のお仲間に見えたりするんだよなァ・・正直、もっと出来のいいのもここに有ったりしてね。あ、逆向きのも有るね・・・ 

 最後にボクが一番気に入っているワニ・・これは古いIZODのボーイズに付けられていたブルーの縁に白いボディのワニだよ。コレ、とってもカワイイと思うんだよ。このワニだけを復刻出来ないものかねェ・・・

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