悪ガキ達は年頃になるとサングラスに憧れるんだよ

悪ガキ達は年頃になるとサングラスに憧れるんだよ

 70年代の幕開け・・大阪万博も大盛況のうちに無事終わり、めでたく高校生になれた頃ボク達悪ガキ連中は生意気にも少しずつ色気が出て来てね。無事滑り込めた高校は制服が無くボク達は私服で通学出来たんだけど、だんだんとアイビーの洋服や靴そして整髪料の匂いをプンプンさせた7:3分けのケネディカットだけじゃ満足出来なくて、あれこれ更に格好付ける事を考え始めた。何か競ってみんなで背伸びしちゃってね、出来るだけ年齢が上に見えるように色々と悩むんだよ。

 それでも入学して最初の頃だけは一応緊張して割と真面目?に過ごしていたんだけど、だんだんと慣れて来るとまず学校から脱走して通りの向こうの喫茶店に行く事から始まってね。

 それで何人か集まると必ず誰かがタバコ(大概は当時人気だったセブンスターかハイライトだったんだけど、一人いつも母親の買い置きをくすねて来るヤツが居て、そいつは一向に人気の出ない「峰」だった。)を隠し持っていてね、そしておもむろに出して吸い始めるもんだから本当はまだちゃんと吸えもしないのにカッコ付けてオレにも一本くれよとか言って一服目から涙目になってゲホゲホやるヤツが居るかと思えば、本当はこの間までコーヒー牛乳を飲んでいたクセにサイフォンで点てたコーヒーを頼み見栄を張ってブラックで飲もうとするヤツとか、先月までカバンに入っていたのは少年マガジンだったクセに突然兄貴の部屋から持って来ちゃった平凡パンチを「じゃ~ん!」とか言ってみんなに見せびらかして、そのヌードグラビアのページをぎこちなく足を組んで眺め始めるヤツなんかが居てね。

 ボクはボクでお店のマッチの中身を全部出しちゃって隣のヤツとマッチ棒クイズをやりながらカウンターの中に居るお姉さんとMG5とブラバスだったらどっちの匂いの方が女のコは好き?なんてやっていて、みんなバカみたいだけど結構それなりに真剣だった。でも時々おっかない上級生達がいきなり入って来るとみんな店の奥の方にサッと詰めてタバコを消し、足を揃え直して下を向いちゃったりしてね。

 そんな事を日々飽きもせずにやっていたある時に友達の一人がサングラスをかけて来たんだよ。何かカッコ良くてさ、大人っぽく見えるワケ。「わァ、どうしたの?それ・・」聞いたらそいつの兄貴がスキーに行く時にかけているヤツだとか言って見せてくれた。メタルフレームのティアドロップ型のヤツ。「カッコいい~!ちょっとかけさせてよ~」なんて言ってたらみんなで取り合いになっちゃって代わる代わるトイレの鏡を見に行っては「コレ、行けてるよ~オレも欲しい・・」ってなっちゃってね。

 早速家に帰ってボクも従兄弟に尋ねてみたら一応ちゃんとサングラスを持っていて「絶対に失くすなよ。」言われながら一時的に借りる事が出来た。でもデザインがちょっと行けて無くってさ、何かちょっとだけ形がオッサン臭いんだよ。当時は少ない情報の中でアメリカ人⇒サングラス⇒ダグラス・マッカーサーみたいな分かり易いイメージが有って、友達とやっぱりメタルフレームのティアドロップ型のヤツが絶対カッコ良いよねってな話しになってさ。それで早速買いに行こうという事になったんだよ。

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 それでまずはいつも行っていたVANショップのお兄さんに聞きに行ったらちゃんと知っていて「あァ、RAY-BANね」って教えてくれたんだけど、ボクは最初「零番」ってお風呂屋さんの下駄箱の番号みたいなのを想像しちゃって最初はメーカー名だと全然分かって無くってね。「え?」って聞きなおしたらお兄さんがそういう名前のアメリカのメーカーでたぶんマッカーサーのかけているヤツがそうだと言うから、「やった~それで決まりだね!」なんて思って教えてもらったデパートの特選売り場に行ってみたんだよね。

 「ひェ~、た・高い!」値段を見て、瞬時に検討のキャパを超えてしまったボクと友達はビビってサッサと帰って来ちゃった。だからそれから暫くはデザインに不満は持ちながらも何かあるとその度に従兄弟のサングラスを貸してもらっていた。

【注:後日、中田商店さんで教えて頂いたんだけどマッカーサーがかけていたのは、RAY-BANじゃ無くってやはり軍用グラスのサプライヤーAMERICAN OPTICAL(AO)のモノでは無いかという事だった。】

 そんなこんなでその後の月日の経過が少し曖昧だけど、ある時に友達が「たまちゃん、テイメンにRAY-BANが半額くらいで売ってるよ。」って教えてくれてさ、「え~!」ってなもんで早速そいつと見に行ったんだよ。そしたらズラリとガラスケースに並んでいてね、でも良く見たらデザインはほとんど似ているんだけどSPALDINGって書いてあってさ。(当時のVAN繋がりのライセンス商品だったんだろうかね。)まァ要するに日本製のそっくりさんだったワケ。だけどSPALDING、それはそれでボク達はアメリカのスポーツブランドだって知っていたからその時はSPALDINGでも全然OKだった。だってRAY-BANは値段が高くてとても手が出なかったからね。

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 めでたくボクはSPALDINGのグリーンレンズのティアドロップ型のサングラスを手に入れて暫くご機嫌だったんだけど、たまたまある時に新しモノ好きの友達がRAY-BANのイエローレンズをかけているんだよね。でさ、そいつが言うにはこれからのニューアメリカンスタイルはRAY-BANのイエローが絶対オシャレだとか言うワケ。

 ちょうどその頃ちょっと遅れて観に行った映画「イージー・ライダー」でイエローレンズをかけて誰かが出て来るシーンはボンヤリと認識はしていたんだけど、あんまりカッコ良くも思わなかったからまさかそんなのにそいつが飛びつくとは思っていなかったんだよね。だけどあんまり自慢するもんだから一応それを借りて空を見上げたら何か更に眩しいような気がした。

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 後で知ったのだけど、「イージー・ライダー」の中で出て来るRAY-BANのイエローレンズのモノはSHOOTERという名前で黄色い色のレンズは射撃専用のモノだと言う事だった。要するに曇天や暗がりでも標的がクリアに見え易いように開発されたレンズだという事で間違っても真夏の快晴の昼間に太陽を見上げるようなモノじゃなさそうだった。因みにSHOOTERのブリッジ部分に取り付けてある丸い「輪っか」は初期型は直径が数ミリ程小さくて後期型と見分けが付くんだよと後日先輩から教わった事があるよ。

 また「イージー・ライダー」の中でブローカー役?としてイエローレンズで登場するのが、あのWALL OF SOUNDの鬼才、63年の大ヒット「BE MY BABY」を唄ったロネッツのリード・ヴォーカル、ヴェロニカ・ベネットの元亭主「フィル・スペクター」だったというのは随分後になって発売されたビデオを観て知った事だったけどね。

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 その「イージー・ライダー」が発端なのかどうか分からないんだけど73年頃から関西で急に増殖し始めたニュートラスタイルのフレアパンツを穿いたお兄さん達がセミロングでソフトリーゼントの髪型に時々RAY-BANのイエローレンズをかけているのが目立ち始めてね。ボクはやっぱり、ありゃァ変だ・・なんて思っていて最後まで買わなかったけれど。

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 結局ボクがRAY-BANを手に入れたのは74年に上京して来た時で、例によってアメ横で買ったんだった。SHOOTERの濃いスモークグリーンレンズのヤツでね、フレームに「10K」って刻印が有った。ちょうどその頃だったのかな?ロックバンド「キャロル」が「キャロルファースト」というレコジャケでRAY-BAN?のOUTDOORS MANというタイプをかけて登場したり、

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 その後「ダウンタウンブギウギバンド」の宇崎竜童なんかが「続・脱どん底」というレコジャケにミラーレンズのティアドロップで登場したり(アレはRAY-BANじゃ無かったと思うけど。)と、

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 何だかあの手のサングラスはボク達だけじゃ無くってアウトローを気取る連中達のものにもなり始めていてね。アメリカンな連中もクールなアウトロー気取りの連中もみんなRAY-BANだから週末に新宿とかで遊んでいると、一時はRAY-BANだらけだった。

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 白黒写真はちょうどその頃で、どこかの楽屋だったっけかなァ?RAY-BANのSHOOTERに当時はご自慢だったCONVERSEのTシャツだよ。(禁煙と書いてある場所でタバコ吸うなよって、やんちゃだったねェ。)

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 カラー写真の方はもう少し後だと思うけど多分LAのどこかだね。当時お約束の#646コーデュロイのサックスブルーにPRO KEDSのメッシュだね。そしてRAY-BANのSHOOTER。その後も何か有るとサングラスって買っちゃうから何だかあれこれと増えちゃってね。

 画像は、後日RAY-BANのSHOOTERはレンズの口径が少し大き過ぎると思いあらためて買いなおしたOUTDOORS MAN。

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 ジョン・レノンに憧れ、

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 ギターを弾く時にカッコいいかと思って真似して丸いブルーレンズのサングラスをNYの雑貨屋さんで衝動買いしちゃったりね。

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 そして形はWAY FARERっぽいんだけど、このファンキーなグリーンのカラーがとっても気に入ってパリで買っちゃったCREEKSの安物とか相変わらず懲りないよねェ。

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 何か気が付いたら今は家の中のあちこちに有名無名のサングラスが幾つもゴロゴロと散乱しているよ。

 最近数年はようやくRAY-BANのWAY FARERやCLUB MASTERにとりあえずは落ち着いていて今の所は結構気に入っているよ。

 まァ、もう今さら年齢が上に見える必要は全く無くなっちゃったけど(むしろ、逆だ。)、またボクは突如衝動的に何か買っちゃうんだよ。そしてまた一つ確実に増やすんだろうね。

 今はエラそうにうちのお店でRAY-BANを並べて売っているけれど、ボクもここに辿り着くまでには、それなりに色々悩んで来たんだよ。