「納得いくまで・・」
- 2016.04.23
- 玉木朗の超B級アーカイブ
昔からシャツというアイテムが、かなり好きなんだよね。特に一番好きで長年着ているボタンダウンシャツに付いては自分なりのコダワリだとか美学と言うか、各ディテールに対して理想が随分以前からハッキリと有ったんだけど、いざオリジナルとして作るとなると生地の買い付けロットや生産数量、そして日本製でという条件だったからそれに伴う生産工賃等の問題で実現するまでにとても時間が掛かり、ようやく最近少しずつ作れるようになったんだよね。
だけど当初から一番のハードルというのが、実は工場の縫製技術レベルの問題だったんだよ。実際にボクが描いた試作サンプルの仕様書を見た途端に2軒の工場さんからたて続けに辞退され今の工場さん・・実は3軒目だからね。
そんな紆余曲折の末にいざ出来上がってみれば、もちろん自分の思い込みで作ったボタンダウンだから当然と言えば当然だけどスゴく気に入って着ているよ。全然文句無いもんね・・って、オーダーメイドみたいなもんだから、当たり前か。
ただ、正直なところ幾らボタンダウンがアメリカンスタイルのベーシック・スタンダードだとは言っても、あまり毎日お米のゴハンを食べていると時にチャーハンにしたり、はたまたトーストやパスタが食べたくなったりするように、違う衿型のシャツも時々着たくなる時が有るよね?
まァ、実際メンズシャツにはボタンダウン以外にもレギュラーカラーやワイドスプレッド、バンドカラーやタブカラー、ワンナップカラー等様々な衿型が存在するのだけど、ボクは自分の好きな格好が基本的にアメカジなので、ドレスっぽいのもダメだし、そうかと言って基本型だと言われるレギュラーカラーは余りに特徴が無いというか、どうしても物足りなさを感じてしまうんだよね。だから、どうしても自分のテイストを主張するだとか、コダワリを表現するためにボクがボタンダウンの次に好きで良く選ぶ衿型はやっぱりラウンドカラーが多くなるのかなァ。
あ、前々回にブログに書いたウェスタンシャツやワークシャツなんかは、レギュラーカラーだけど特別ね。ウェスタンシャツやワークシャツに対するコダワリは衿の形では無くてフラップポケットやヨーク、スナップボタン等のディテールが主張部分だから。要するにボクは、あまりディテールに特徴が無いシンプルなシャツが好きじゃないという事だと思うんだよ。
ボクが一番最初に着たラウンドカラーのシャツ、実はちょっと異端児だけどKENTのピンホールカラーだったんだよね。(分かるかなァ?画像のような衿型だよ、きっと最近はほとんど見ないよね?)
画像よりも、もっと細い2インチくらいの細身のニットやレジメンタルのタイのノットをもっと小さく結び、そして上手にディンプルを作ってカラーピンを刺し込んで持ち上げて締め上げるとカッコいいんだよ。当時ボクは、まだ高校生のクセにネイビーブレザーやナローラペルのグレーのアイビースーツにピンホールを合わせて着たりしていた。
ところがこのピンホールカラー、気が付いたらその頃繁華街に群れて居たリーゼントのヤンキーっぽいヤンチャなお兄さん達が好んで着ていたコンポラスーツ(これも、みんな分かるかな?説明すると長くなるからネットで検索してみてね)に合わせて着ている事が多かったんだよね。
玉虫と呼んでいた生地(これも知らないだろうなァ・・玉虫みたいな不思議な光沢の有る生地で、それを使ってコンポラをオーダーするのが、その頃のお兄さん達のオシャレだったんだよ。)のコンポラと共地の細身のタイを同じテーラーにわざわざ作ってもらって締めたりしていてね。
だからピンホールシャツを着ていて繁華街で睨まれたりするのもおっかないから途中でボクはタイもピンも付けないカジュアルシャツとしてVネックのセーターに合わせたりしていたんだよ、時々アスコットスカーフをしたりしてね。そしたら学校で友達から、女のコのブラウスの衿みたいだと言われたから結局着るのをやめた事を思い出した。
それから随分時間が経って、その次にラウンドカラーを着たのはアメ横に居た頃で、プレッピーの時代ど真ん中の頃に入荷して来たのが、まだアメリカ製だったPOLO BOYS(HOLBROOKというシャツメーカーが生産していたんだよ)のオックスフォード素材のシャツでね、ボタンダウンとラウンドカラーが有ったんだよ。そのラウンドカラーを確か2色か3色買ってフェアアイルのボタンヴェストなんかに合わせて着たり、IZOD LACOSTEのポロシャツの上に重ねて着たり(そんな着方も流行った事が有ったねェ・・確か雑誌”POPEYE”が流行らせたんだよ)と、かなり気に入っていた。
その後も、見ると欲しくなるからラウンドカラーのシャツも気が付いたら何だかワードローブに増殖していた。
まァ、そんな事も有って今までにもオリジナルとしてラウンドカラーは何度か試しに作った事は有るんだけど、今回は思い切ってLACOSTEのポロシャツのように真夏にも着られるような自分が納得いくラウンドカラーの半袖プルオーバーシャツを作ろうと思ったんだよね。
で、「こんなややこしいシャツは、今まで作った事が有りませんし・・」と言う及び腰の工場さんを説き伏せて試作を繰り返し、ようやく、まず自分が着たい・・と思い描いていた通りのシャツが出来上がったんだよね。思う存分凝りまくった・・と言うか、ああなっていて欲しい、ここはこうでなくちゃ・・などと半分意地になってディテールを具体的に追い込んで行ったら、ちょっと他では見ないようなシャツになっちゃった。
だけど苦労した甲斐が有って、スゴくカッコいいと思うんだよね。それに真夏に相応しいようなキュートなプリント柄も今年はいっぱい用意出来たし。
うちのオリジナルお得意のプルオーバーは、やはりプラケットが浅目の3ボタンフロントで、個人的には60年代っぽいクラシックなショートプラケットが昔から絶対カッコいいと思っているんだよ。ポケットはやっぱりペンスロット付きのフラップ付きに限るよね。iPodや小さいスマホ入れても落ちないし・・・イヤホンをスロットホールに通せるし。
そしてカジュアルに着用する事を前提としているので、トップボタンを開けた際に余り広がり過ぎないように少し小さめの衿にしてみたんだよね。因みに今回入荷分の生地の一部にはカリフォルニアのROBERT KAUFMANのオックスフォードを使用してみたよ。勿論お約束の台衿部分のキルトステッチは忘れていないからね。
実はこの衿の裏側にボタンホールが切って有って、ブラインド・ボタンダウンという仕様にして有るんだよね。随分昔に友達の古着屋さんで見たLEVI’Sだったかな?のワークシャツの仕様を記憶していて再現してみたんだよ。(上の画像、左側が衿のボタンを留めた状態で右側が外した状態)
この複雑な襟元の仕様を見事に実現したのが今回の工場さんの腕の見せ所だった。このチンストラップのカーブの付け方が事のほか難しいんだよね。(と、言うか嫌がるんだよ・・)
そして柄物だと分かりやすいんだけど、背中上部のセンターはスプリットヨークと言う仕様で「あくまで「出来る限り」の左右対称の”柄合わせ”」をお願いしているんだよね。(大柄のマドラスチェックだとか不規則なプリント柄なんかは当然限界が有るから困難だけど)そして右側がプラケットやパッチアンドフラップポケットの柄合わせ・・・(ただし、あくまで手作業だし、少しズレちゃう時も有るよ。”出来る限り”だからね)もちろんお約束のバックボタン、そしてハンガーループは無いとやっぱり物足りないよね。
そして上の画像左側を見てもらうと分かると思うんだけど、ヨーク部分の柄をタテ・ヨコ真っ直ぐに取る(無地の場合もやり方は同じだよ)からヨーク背中側の中心で斜めに突き合わせる事になるんだよ。そしたら右側の画像で分かる通りヨークから袖に向かってほぼ”真っ直ぐ”柄が走る事になるんだよね。実はオーダーメイドのシャツだと稀にやる仕様で”袖山合わせ”と言うんだけど、工場さんが思い切り嫌がる部分なんだよ。
そして実用機能は無いけれど袖口にスリットを付けてボタンを付ける仕様も60年代くらいのシャツにはよく見られたディテールでボクのお気に入りのディテールなんだよ。ちょっとした事だけど、とってもカワイイ仕様だと思うんだよね。右側の2本針による巻き縫い縫製やガセットという「まち」を付ける仕様は、もうお約束だよね。
ところが「それで、そんなに手間を掛けて凝ったシャツを作っちゃって、着て分かるくらい着心地ってやっぱり全然違うの?」って仲良しの友達が聞くから、「何て事を聞くヤツだ・・」思った。「まァ、気分の問題なんだよ。」と、答えたけど。
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