マドラス・チェック

マドラス・チェック

 高校に入ったばかりの頃にね、休み時間に教室の窓枠にもたれて友達と話していて「今度マドラス・チェックのシャツを買いに行こうと思ってさ。」「惑わす・・チェック?何だそれ、女子対策か?」「マドラスだよ、お前知らないの?」そんな会話を交わした事を思い出したよ。

 昔からマドラス・チェックって大好きなんだよね。うちのお店でも毎シーズン、半袖シャツやショーツというとしつこくマドラス・チェックをお約束のように並べるし、ボク自身も間違い無く毎年着ているよ。そして毎年同じようなアイテムが自宅のクローゼットに増殖し続けているんだよね。(しかし、懲りないねェ)だけど汗ばむような季節にサラリとした、あの素材感、そして洗い込む程にそれぞれの色が褪めて寝ボケたような感じになるのが、やっぱり最高にカッコいいと思っているよ。

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 ただマドラス・チェックは元々生地があんまり強いワケじゃないし、ショーツなんかはある程度穿き続けているとボクなんか自転者通勤だからお尻の所がだんだんスリ切れて生地が薄くなり最後には破けちゃうんだよ。つい去年の夏にもお気に入りだったパッチマドラスのショーツが信号で止まった時に異音と同時に突然ゴミになっちゃってね。仕方が無いからお店に着いて自転車を停めたらバッグで後ろを隠して事務所まで小走りで行って何とか事無きを得たけど、毎度の事ながらカッコ悪かったよ・・・

 高校1年生の時に初めて1人でVANショップに行き、自分でお金を払って買ったのがマドラス・チェックの半袖ボタンダウンシャツだったんだよね。それまでは中学の時が制服だったからボタンダウンはもっぱら白のオックスフォードで、後はブルーのギンガム・チェック辺りが休日用みたいなカンジでね。 

 ところが高校に入っていきなり私服通学になったもんだから、そんなに洋服をあれこれ沢山持っていたワケでも無いボクは毎日何を着て行こうかと考えちゃってもう大変でさ、ただ最初の頃だけは怖い先輩に目を付けられないようにネイビーのコッパンにブルーオックスのシャツみたいな大人しい格好をして居たんだけど、だんだん慣れて来ると早速新しいシャツが欲しくなって来たんだよね。ちょっとだけ気になっている女のコにも見てもらいたいし。

 それまでは、月に一度はデパート歩きが趣味?という母親に荷物持ちという名目で着いて行っては頃合いを見計らってVANショップやKENTショップに引きずって行き、何か一点セーターだとかシャツなんかを、おねだりするのがお約束でね。母親は仕事で洋裁をしていたからスタッフのお兄さん達が素材だとか細かいディテールやボタン等の話しをするのを「はい、はい・・」といつも聞いていて、大概は理解しているようだった。

 ところが初めてボク1人でお店に行ったから、顔見知りのお兄さんが「今日、お母さんは?」って聞くんだけど、まだ子供扱いされて(実際は子供だったけど)いるのがスゴくイヤで「これからは、1人で来ますから。」などと言いながら柄の気に入ったマドラス・チェックのシャツを探し出して「コレのM有りますか?」

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 そしたら、「これはプルオーバーだよ。分かる?」「え?」「被って着るんだよ。」「へェ~、そんなのが有るんですか?」ショップに置いて有ったメンクラのページを見せてもらい「こういうのだよ、カッコいいでしょ。いつも有るワケじゃないから、まず滅多にヒトと被らないし・・」特に最後の一言が強烈に効いたね。マドラス・チェック好きに加えて、ボクのプルオーバー好きに火が付いた瞬間でも有ったんだよ。どうもこの頃から、ヒトと違うモノ、レアなモノ、入手が困難なモノ等という嗜好傾向が確実に形成され始めていたような気がする。

 お金を払って帰る時に、スタッフのお兄さんから「マドラスは洗う時に色が出るから、絶対に単独で洗うようにお母さんに必ず言って。」言われた。そして帰って母親に見せたら「また随分派手なのを買ったね。だけどこのデザインはアイロン掛けが難しいんだよ・・」言われながら、早速思い出して色落ちの事を言ったら「あァ、これ印度格子か。」マドラス・チェックと呼ぶのは知らなかったみたいだった。

 その頃のマドラス・チェックは原始的な染色をしていたんだろうねェ、伝統的な草木染めの手織り素材で、洗うと色が出るのが本物のマドラスだとメンクラには書いて有ったし、確かVANのシャツにも、そのような事が書かれた下げ札が付けられていたと思うよ。業界用語的には、その色落ちの事を「泣く」と言い、英語では”Bleeding”だと後にシャツメーカーのヒトから教わった。

 更には、その昔インドのマドラス地方(現チェンナイ)を統治拠点にしていたイギリスの東インド会社がスコットランドのタータン・チェックを現地の染色や織物技術で再現しようとしてマドラス・チェックが生まれた・・と何かで読んだ事も有って、な~るほど、そんな歴史が有るのかァ・・・なんて感心した事も有ったよ。 

 現在は、マドラス・チェックも品質が随分安定したモノが供給されているんだよ。 

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 ところで映画に登場するマドラス・チェックのボタンダウンシャツと言えば、やっぱりボクは「アメリカン・グラフィティ」のカート・ヘンダースンを演じたリチャード・ドレイファスを思い出すよ。ちょうど映画が公開されたのが74年だったからボクが上京して来た年でも有ってね、それで主人公達の境遇と自分の境遇がダブっちゃって、ラストではちょっとだけ感傷的になった。若かったよ・・・ 

 ところが一方で自分のファッションは既にその頃アイビーを卒業したつもりになっていたのに、やっぱりアメリカ人の着るアイビーはカッコいいなァ・・全然古臭く無いや、などとスクリーンを食い入る様に観ながらあらためて思っていた事を思い出したよ。「アメリカン・グラフィティ」は、その一回で大好きな映画になってしまい、その翌週も2回目を観に行った。多分今までに30回くらいは観たような気がするよ・・・

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 少し話しが戻るけど、半袖のシャツに始まり次はショーツだとかネクタイ、スウィング・トップ、更にはハンカチや財布までマドラス・チェックだらけになって来たボクが次に買ったのが、VANのスニード・ジャケットという名前(プロゴルファーのサム・スニードから命名したんだと多分ショップのお兄さんから聞いた。)のカーディガンのような裏地の無い一重のアウターでね。画像の左側の柄だった。これは、とても使い勝手の良いアイテムでTシャツやハイネックの上に羽織ったり、またある時はホワイトオックスのボタンダウンを中に着て、そして細身のネイビーのニットタイを締めたりしていたんだよ。 

 ただ、当時はめちゃくちゃカッコいいと思っていたんだけど、今発売したらきっと微妙だよね・・・

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 そんな事を思い出しながら、去年の秋頃久し振りにマドラス・チェックのアウターを何か作ってみようかな?って考えて居たんだよね。ただ、スウィング・トップは何年か前に一度作ったから、そうだ!そろそろアイツを作ってみるか。思い付いたのがマドラス・チェックのジップ・パーカなんだよ。コレ、かなりカッコいいと思うなァ・・・ 

 元々は画像左側に有るような60年代アイテムのイメージなんだけど、実際は80年代初頭くらいまでアメリカでも結構普通に見る事が出来たし、「る~ふ」時代もZERO KINGだとかOUTLANDISH TRADERなんていうブランドのモノを扱っていたんだよ。 

 春先からのベージュやネイビーのコットンパンツやホワイトジーンズ、そして更にはサマーリゾート時のバミューダショーツなんかに恐ろしく相性が良いアウターで、インにはボタンダウンやラコステだけで無くポケTやプリントTなんかにもOKだし、すこぶる使い勝手の良いアイテムだったんだけど、気が付いたら最近は全く見なくなっちゃったよね。 

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 で、どうせ作るのなら・・と思い、久し振りに35サマーズさんに出向き、「今度は何の企みですか?」と既に半歩引いて斜めに構えている担当者をあの手この手で陽動作戦に陥れ、何とか説き伏せて大好きなMIGHTY MACのARO-DECK PARKAを半ば強引にマドラス・チェックで作る事が出来た。 

 ただ独特のゴツいジッパーと大型のT型スライダーが付く事も有って強度的に少し不安だから、まずはちゃんと裏地を付ける事にして、そして表地のチェックも柄の出方や風合いはパッと見、マドラス・チェックなんだけど、実は日本製の打ち込みの良い「それ風」の強度的に優れた生地を色々な生地メーカーから1柄ずつ探して来たんだよ。 

 後は入荷を待つだけなんだよね、楽しみだなァ・・・ボクは赤が入った柄が良いかな?いや、自分で散々選んで気に入って注文した柄だから最終的には全色だなァ。コレ着て自転者通勤するといい気持ちだろうね、楽しいよ、きっと・・・早く桜でも咲かないかねェ。