ストライプの入ったアメリカン・ニット

ストライプの入ったアメリカン・ニット

 ストライプの入ったニットと言えば、今だったら多分当たり前のようにフレンチボーダーのニットやチルデンセーターを真っ先に想像するよね。

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 でも知っている人は余り多く無いと思うけれど、アメリカで60年代から70年頃まで生産されていたフロントとかフルボディにストライプが入ったデザインのニットが有るんだよ。今は似たモノでさえほとんど見かけないんだけど、タテの太いストライプが走ったカーディガンや、フロントに大きくVラインが入ったセーターだとかがカッコ良くってね。そんなのがボク大好きだった。 

 今回は、そんなほとんどのヒトが知らないようなウルトラ・コアなアイテムの話題にする事にしたから、読んでいてつまらないヒトはトイレに行っちゃっていいからね。 

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 またまた古い話しなんだけど、ちょうど77年秋頃から徐々に始まったプレッピーの時代がまた複雑に変化をし始め、その後のマリントラッドなんてのも、あっけなく終息を迎え、そして新しい潮流のCPカンパニーやジルボーなんかのイタリアン・カジュアルの波が訪れ始めた頃の話しね。 

 そろそろ20代の後半に差し掛かっていたボクは、店頭に並ぶ先輩の仕入れたそれっぽい商品を眺めながらもイタリアンの流れになかなか興味が湧かなくてね、その反動からか完全に時代に逆行し、そんな古臭いオールドアメリカン?のアイテムを時々これ見よがしに着ていた時代が有ったんだよね。(イタカジも一応は着ていたよ、CLOSEDのペダルプッシャーを穿いてPUNCHのシャツを着、靴は何故かADIDASのOFFICIALだったりしたよ。見事に何も残っていないけど・・・苦笑) 

 ところで、画像に有るようなこういう柄って本当は当時何と呼んでいたんだろうねエ・・・今さらだけどボク全然知らないや。 

 で、試しに65年のSEARSのカタログを見て、ちょっと呼び名を調べて見たら、上段左からALL-OVER STRIPE、上段中は、FRONT PANEL STRIPE、そして上段右は、VERTICAL BLAZER STRIPEなんて呼んでいたみたいだね。下段のVネックのプルオーバーは、”V”-INSERTED PANEL STRIPEだって。アハハ、やっぱりボクには全然憶えられないみたい・・ 

 ところで上の画像のカーディガンについては、実は自分のモノが1着も残っていなくて、全部当時のアメ横時代の先輩からのお下がりなんだよね。一方Vネックのプルオーバーは自分のモノなんだけど知らない間にサイズが縮んで小さくなっていて(イヤ、ホントは太ったんだ・・・)今は着られなくなっちゃったもんね。 

 でも、ちょっと着てみたいかなァ・・試しにスチームアイロンで横に伸ばしてみたらどうだろうか?着られるようになるんだろうかねエ・・・伸ばす限界が有るんだろうなァ。 

 SEARSのカタログには、カッコいいのがいっぱい載っていたよ。タイムマシンに乗ってお買い物に行きたいよね。画像にも有るように、カーディガンに細っこいタイをする感じが、何とも言えず好きだなァ・・・ 

 ボクは、時々2インチ幅くらいのダークカラーのレジメンタルやニットのナロータイをボタンダウンだけじゃ無くて、ピンホールカラーやタブカラーなんてのもカーディガンに合わせていたよ。周りからは絶対変だ!と言われていたけどね。 

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 ところで下の(8)のカーディガンは、ひょっとしたら先輩からお下がりのブルーのモノと同じアイテムだね!しかも色違い。今回カタログを眺めていて偶然見つけたんだよ。「あ~っ!おんなじだァ~!!」ってなもんだった。何だかスゴい発見だよね・・・ 

 半世紀前のCAMPUSにSEARSがOEMで発注したモノなのかなァ・・だけど、先輩も良くこんなのをデッドで見付けて来たよね、アメリカで見つけたのかなァ・・。当時は$14.83だってさ。今なら1,800円くらいだね・・・キロ単位で段ボールごと買いたいぐらいだよ。 

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 その頃「アメリカかぶれ」を自認するボクにとって、一時はこんなテイストのニットがSTA-PRESTのテーパード・パンツや、T/C素材のボタンダウンシャツと共にご自慢のアイテムだったんだよ。わざわざ変な色の組み合わせだとかにして、本当は思い切り時代遅れな格好のクセに自分は世界一カッコいいなどと思って調子に乗って舞い上がっていた。 

 そしてよせばいいのに60年代モノの特徴であるサイドに付いているボタン・スリットを見せびらかしたくて真冬なのにセーター1枚で寒いのを我慢して見事にカゼ引いちゃった事まで有るよ。今も全然変わっていないけれど、当時からボクは筋金入りの大バカだった。

 時々、取材なんかで聞かれる事が有るけれど今でも「好きだと聞いているアメリカンファッションの中でも一番好きな時代はいつ頃ですか?」と聞かれるとやっぱり64年くらいをピークに一旦成熟したアイビースタイルが次の流れに向かって変化をし始めた60年代中頃から70年頃の、ちょうどこの様なアイテムが多く存在した時代が、新しいデザインや素材も含め試行錯誤の結果生み出された面白いモノがいっぱい有って、やっぱり一番好きです!・・って答えているよ。実際は、変なモノも多かったけどね。 

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 ところで「アメリカかぶれ」と言えば、ちょっと遡るけど60年代の後半頃、一世を風靡したGSブームの中では飛び抜けて音楽も格好もバタ臭さが突出していた異色の存在、あのゴールデンカップスのレコジャケでエディ藩が着ているカーディガンがスゴくカッコいいんだよ。コレ、ボクも欲しいな・・・ 

 おそらくエディさん、よっぽどそれがお気に入りだったんだろうね?別のレコジャケでも同じカーディガンを着ているもん・・・と、思ったら多分このジャケ写は同じ日に撮っているんじゃ無いの?良く見るとデイブ平尾もルイズルイス加部もマモル・マヌーも格好が同じだよ。きっとエディさんとケネスさんだけシャツを着替えたんだね。当時はそんなもんだったのかな?・・・ 

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 じゃァ、ご当地アメリカはどうよ?って言うと、こういうニットを着ていてすぐ思い浮かぶのはやっぱり大好きなビーチボーイズやエヴァリー・ブラザーズかなァ。文句なしにカッコいいよ・・その他にもニール・セダカだとかボビー・ヴィー、サム・クックなんかを思い出せるんだけれど、既に売り飛ばしちゃったレコードだとか、その時代を特集した雑誌だとかで、紹介出来る画像が全然無いんだよ。ゴメンね・・・ 

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 でも正直言って周りの服好きの連中の間でさえ、こういうニットはまず話題になる事なんか無いし、まさか今復刻させたら売れるかな?なんて思うヒトも居ないんだろうなァ。だから業界の中を見渡してもほとんど目撃した事が無いもんね。古着屋さんに行けば意外に当時のモノが有ったりするのかな?・・・ 

  まァ、強いて言えば超の付くくらい高級品過ぎるけれどオーストリアの老舗”FANNI LEMMERMAYER”(ファンニ・レンメルマイヤー?レマーメイヤー?どっちなの?)の名作、アルパカ・カーディガンなんかが、かなり良いムードだよと言えば、確かにそうなんだけどね。でもボクは、すぐ引っ掛けちゃったりするから勿体無いし・・アクリル製で我慢するよ。それに、値段よりカッコいいかどうかが勝負ポイントなんだから。と、言いつつホントは欲しいんだけどね・・・先週、通りがかった代官山のショップのウィンドウに出ていたよ。 

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 ところでそんなスタイルを初めて意識し始めたのは、73年に入った高3の頃だったと思うけど、アイビーからだんだん遠ざかり始めたボクが、まずハマったのはその頃関西ではニューアメリカン・スタイルなどと呼んでいたニュートラやウェスト・コーストスタイルの原型みたいな格好だった。そして、それとは別にその頃、好きになって聴くようになり始めた60年代オールディーズのシンガー達の格好も気になり始めていて、まずこの時がたぶん最初のきっかけだったんだよね。 

 その頃オールディーズの国内盤のレコードなんて、ほとんど廃番になっていた時代で輸入盤のセールや中古盤でしか手に入れる事が出来なかったけれどレコジャケの写真になっているファッションはカッコいいのが多くてとても新鮮だった。そして小さい頃、当たり前のように観ていたTVのアメリカン・ホームドラマのファッションともシンクロして、よりリアルに思い起こさせてくれたんだと思うんだよね。 

 たまたま手元に有ったその頃に出たメンクラのアイビー特集号を今見てみると、そんなようなストライプのニットアイテムが、ちゃんと出ていたんだねェ・・。だけど、う~ん・・ちょっとだけ違うよなァ。こうじゃ無くて・・・まァいいか。だけど、こういうアイテムってアイビー特集号に掲載するようなアイビーのワードローブになるの?まァ、今さらどっちでも良いけどね。 

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 話しが戻るけど、その、オールディーズ時代のシンガー・スタイルというのは言わば60年代の格好だから、前半の頃はちゃんとアイビーっぽい人達も居たんだよ。だけど巷で言うアイビーに似てはいるけど、それぞれのアイテムの色使いや柄なんかにちょっとヒネリが入っているんだよね。 

 勿論ボタンダウンも着るしスリッポンも履くんだけど、アイビーの持つ爽やかさというよりは、もっとクセの有るスタイルに演出されている事が多くてね。パット・ブーンくらいだよ、そのままアイビーだったのは。 

 ボクが目指していたのは例えば「ビキニスタイルのお嬢さん」でお馴染みのブライアン・ハイランドみたいなイメージだったかな。(このシャツの柄も最高にカッコいいよね)ファッションも勿論だけど、特にこういうヘアスタイルは本当にカッコ良くて憧れてね。 

 床屋さんにレコジャケを見せて、こういう髪型がしたい・・相談したら「あ、無理!」ってさ。ボクの天パーでネコっ毛では最後まで実現不可能だったんだよ。パーマとかスプレーとかというレベルで解決する問題では無かったみたいだ。髪の色も違うし・・・ 

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 そして髪型と言えば、一度も話した事は無かったけど、いつもボク達悪ガキが集まっていた喫茶店に来る少し年齢の離れたオシャレな先輩が(ちょっとおっかないから最後まで話しかける勇気が無くってね)そういう60年代っぽい格好を時々していてボクは最初「ヘアスタイルが?だけど、少し変わったアイビーでカッコいいなァ・・」くらいに思っていたんだよね。太いストライプのカーディガンに細いニットタイをしているんだよ。 

 いつも洋モクのLARKとかWINSTONで火の付け方だとかの仕草がカッコ良くて、英字新聞をケツのポケットに突っ込んで居たりしてね。ところがヘアスタイルがGIやケネディとかクルーでも無く前髪を長く伸ばしていつも中途半端な7:3だから、ボクはあの髪型だけはもうちょっと何とかすれば良いのに・・くらいに思っていたんだよね。ところが後日気が付いたんだけど、あれはひょっとして初期のブライアン・ウィルソンの髪型を意識していたんだろうかね?なんて思っている。(違うかも知れないけどね)今となってはもう分からないんだけど、何度かその先輩とレコード屋さんでも会った事が有るから音楽好きなんだろうし、何だか今はそんな気がしているよ。 

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 ボクはその先輩の格好の真似をしようとしてね。だけど基本的にモノが無いのでまずは、従兄弟からLACOSTEのちょっとオッサン臭い色の太いタテ縞柄のカーディガンを無断で拝借し、濃い水色の日本製WRANGLERのカラージーンズのセンターにアイロンでピシっと折り目を付けインスタントのプレスジーンズを作り、VANのボタンダウンに無地のニットタイ。そして買ったばかりのSEBAGOのスコッチのヴァンプを履いてみたんだよ。 

 そしたら何となく、それっぽく見えたからちょっと嬉しくてね・・・ところが家に帰ったら何故かカーディガンを勝手に着て行った事が従兄弟にバレていて、おまけにタバコ臭くなったから、それからはお願いしても、なかなか貸してくれなくなっちゃった。 

 そんな頃、仲良しの別の先輩に喫茶店でその「変なアイビー」の事を聞いたら「○○さんのは、神戸っぽいヤンキー・アイビーだ」って言うんだよね。本当だったかどうか分からないけど「大阪ヤンキーと神戸ヤンキーが居て、神戸ヤンキーの方が格好は大人しいけど輸入モンの高いモノを着ているんだよ」などと教えてくれた。今思えばその年上の○○先輩の格好が、そんな60年代のヤンキー臭いテイストがバッチリ入っていたのかも知れないなァ。と、まあその頃は勉強もせずにそんな事にばかり時間やエネルギーを使っていたんだよ。あ、お金も・・・

 その後、上京しアメ横に通い始め、しばらくしたらそんな60年代アイテム、それもアメリカ製の本物が何軒かのお店でバラバラと眠っている事を発見し始めたんだよね。 

 ただ本当にラッキーだったのは、70年代でもまだアメ横でそういったモノがあちこちで残っていた事だよね。ずいぶん色々なアイテムを見つける事が出来たんだよ。そして「る~ふ」に入ってからは、それこそ毎日アメ横に居たワケだから「守屋商店」や「マルビシ」に飽き足らず、あっちこっち「お宝(デッドストック)探し」にウロウロしてね。 

 婦人服や子供服の「笹原商店」だとか、下着や雑貨等を扱っていた「いがらし商店」も、昔はPXから男物が入っていたって言うから古い在庫(残り物?)を見せてもらって安く引き取らせてもらったり、更には「根津商店」の根津神社のところに有る倉庫まで遠征したり、「マルセル」に居た後輩に倉庫探検をしてもらってお宝を発掘してもらったりとかね。 

 やっぱり周期的に、まだバラックだった頃のアメ横に時々戻りたくなるよ。きっと楽し過ぎたんだよねェ・・・もう二度と来ないよ、あんな時代。先輩も後輩も仲間達、みんな毎日それぞれ好き勝手な格好をしてね。 

 ところで ↓ モノクロ画像のおネーさん、カッコいいVネックでファンキーだね。Vの間がちょっと広がっちゃった?みたいだけどカッコいいよ。そして右側に当時のスタイリングを思い出して作ってみたよ。ボクは、こんな感じの格好をしていたんだよね。だけど今見るとちょっとカッコ良すぎたかねェ・・・これじゃウケなかったワケだよ。 

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 ↓ 当時の広告。当店じゃ沢山引き受けられないから誰かシャレの分かるセンスの良いメーカーさんが本気でこういうアイテムを復刻してくれないかなァ?ボク、ちょっとだけ欲しいんだよね。特に ↓ 一番左のヤツがいいんだけど。

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