見栄を張るのも命がけだったよ・・

見栄を張るのも命がけだったよ・・

 お盆の最中は業者さんも大概お盆休みだから電話やメールもほとんど無くって比較的ヒマでね、それであんまり急いでやる事も無いから事務所の自分のデスク周りを片付ける事にしたんだよ。もうサンプルやら生地見本、書類やカタログに始まって、更には私物の服やら靴やらDVD、CD、雑誌に至るまであっちこっちに突っ込んであって自分で呆れるくらいにヒドいの。

 おまけに昔から溜め込んだ古い服や靴もデスクの上の棚に段ボールに入れて積み上げて有るんだけど、サンプルに使うんだとか業者さんに見せなくちゃとか言っては引っ張り出すだけ出してきちんと元通りに戻すという事をしていないからかなりハイレベルにグシャグシャな状態なんだよね。まァ冷静に眺めると、なかなかに感動的な景色でボク「ゴミ屋敷」を作る才能は十分あると思ったよ。

 それで、とりあえず目に付くところからやるかねェ・・なんてボチボチ始めたら古い靴をドカドカと突っ込んである段ボール箱からカビが生えた状態でコイツが出て来た。

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 ありゃァ、FRYEのリングブーツだよ。確か一昨年だったか自分の本に出演させる為に一度キレイにカビを落として磨いたはずなんだけどね。しょうがないねェ・・とか言いながらブラシでカビを落として屋外に持って行きしばらく干してみるか、などと思って眺めていたらコイツのせいで思い切り痛い目に遭った事を思い出した。

 まだ「る~ふ」に入って間もない頃にね、まだお店は三角地帯のバラックの時代だったんだけどコイツを履いて屋根裏のストックに昇り降りする為に壁に垂直に直接取り付けて有ったハシゴで商品を持って上から降りる時に見事に足が滑り、ハシゴを踏み外して落下しそうになった事が有ったんだよ。幸いすぐ横に有った什器の柱に咄嗟につかまって最悪の事態は免れたんだけど、変な姿勢のまま片手で半分ぶら下がったようになったから肩と背中のスジ?がおかしくなっちゃって、それから暫く右肩と背中がおかしかった。

 大体ボクはこの手のブーツに相性があんまり良くないみたいなんだよ・・と言うか、歩き方にも全然注意が足りないからTONY LAMAの時なんかほろ酔い加減で御徒町駅の階段を見事に滑り落ちたしね。これも幸い2~3段だったから怪我しなくて良かったけど、お尻をしたたかぶつけて一瞬声が出なかったもんね。家に帰ったらオシリのポケットに突っ込んで有ったGOODYのクシの上半分が折れて無くなっていたのに気が付いたよ。 

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 だけどね、ホント欲しかったんだよね・・カッコいいアメリカンなブーツが。一方、当時バイト先の友達の中にはツェッペリンだとかマーク・ボランのTシャツを着て、ブラックのスリムジーンズの裾を割って、見るからに転びそうなロンドンブーツ(画像)を履いているヤツとかも居たんだけど、ボクはそっちの流れには全然興味無いよって感じで、とにかく男っぽいFRYEのリングブーツにとても憧れていたんだよ。 

 そしたら二度ほど一緒にアメ横に行った事もある友達が先にリングブーツを買って履いていてね、それで「一度履かせてくれない?」って貸してもらって履いたら、やっぱり目線が上がる分、景色も変わるんだよね。身長が170センチ有るか無いかのボクが175センチくらいの目線と視界なワケ。「やった~!バンザ~イ!最高・・女の子全員、カモ~ン!!」ってなもんだった。当然の事ながら脚もバッチリ長く見えるんだよ。何だか、幸せになれそうなブーツだった。 

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 FRYEのリングブーツを初めて見たのは多分「ミウラ&サンズ」のスタッフが#646かMAVERICKのデニムに履いていたのを目撃したのが最初だったと思うんだよね・・動く度に両サイドのリングがチラッと見えて超カッコいいワケ。それで「あ~っ!オールマンのブーツだァ・・」と、突如思い出したのが、それっぽいブーツを履いて写っているオールマン・ブラザーズ・バンドの特集をした”ミュージックライフ”の記事中の写真やレコジャケだったんだよ。 

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 ボク、高校生の時にちょっとだけブルースバンドのマネ事をしていたんだけど、本当に良く聴いていた”フィルモア・イーストライブ”のレコジャケなんかで見る事が出来る格好は何と呼ぶスタイルなのかよく分かっていなくてね、だけどカッコいいアメリカの新しいスタイルが確実にそこには存在していた。 

 やっぱり音楽の腕前はともかくとしてバンドやるんだったらデニムにブーツを履いてもっと髪を伸ばさなくちゃダメだよなァ・・なんて、ずっと思っていた。 

 だけどFRYEのリングブーツは値段が結構高かったから、ボク自身はなかなか手が出なくてね。そしたらある時にバイト先の先輩が譲ってくれるって言うんだよね。ちょっとサイズが大きめだったけど、もう嬉しくってさ・・#646のデニムに履くとカッコいいの。#646はヒザのすぐ下辺りが狭いからちょっとだけブーツのトップの部分の収まりが悪かったんだけど、それでもミラーレンズのRAY-BANをかけてMAVERICKのGジャンやSCHOTTのボマージャケットに合わせてね。自分は世界一カッコいいと・・その時は思っていた。 

 そしたら、お店のハシゴで危ない目に遭っちゃったから結局お店には何度も履いて行かなかったんだよね。 

 そして、そのうちにどんどん台頭して来たサーファースタイルが#646もデニムじゃ無くてコーデュロイのホワイトとかサックスブルーなんかの方が断然「西っぽくて、カッコいいよ!」みたいな流れになって来た中、2シーズン前くらいから見かけるようになっていたLEVI’Sの新しいファッションラインの”MOVIN’ ON”やカワイイ「にんじん」のタグが付いていた”FRESH PRODUCE”のアイテムを穿き出す連中がアメ横では急に増殖し始め、それにADIDASのスニーカーやCLARKSのワラビー、TOP SIDERのデッキシューズなんかを履くのが新しい潮流となって来てロングブーツなんか今さら有り得ないでしょう~なんてカンジになってね。 

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 だから、同じFRYEでもまだスエードのペコスブーツの出番は時々有ったものの、いつの間にかリングブーツは文字通り、無用の長物になっちゃったんだよね。 

 その後、80年代に入ってすぐくらいだったのかな?ディスコサーファー達がFARAHのホップサックやLEVI’SのチェックのニットパンツにTONY LAMAだとかのウェスタンブーツを合わせる連中が出始めてね、何だか一時ちょっとしたブーツのブームみたいにもなったんだけど残念ながらリングブーツの出番は最後まで無かった。 

 コレ、どうしようかねェ・・多分、もう履かないよ。だいいち合わせるパンツだって無いもんね。それに年を取ると革底は疲れる上に思い切り滑るから危ないし、ましてや今になって、たかがブーツぐらいで命の危険にさらされるのは絶対ヤだしね。 

 あ、そうだ!倒れないように両足を縛ってカサ立てにでもするかねェ・・いや、やっぱり段ボール箱にちゃんと戻しておこうっと。